四十肩・五十肩の本名は「「肩関節周囲炎」(けんかんせつしゅういえん)。
文字通り、肩関節の周りに炎症が起こり痛むという症状です。
リハビリテーションや日常動作など、積極的に動かすと良くなると言われており、施術で関連部位を併せて弛緩させることも有効です。
- ジャケットを着るために腕を後ろに回すと電気が走るような激痛が起こる
- やかんを持ち上げようとしたら力が入らず落としてしまう
- 引き戸を開けようとすると「ズキーン」と重たい痛みがある
など重症な状態はなくなったものの、
- 何か特別なことはしていないが、ふとした拍子にピキーンと嫌な痛みを感じる
- 肩の可動域が完全に戻らずまっすぐ挙がりにくい
- 後ろ手にできない
という「あと一歩のところで治りきらない」状態を改善した症例をご紹介します。
最後の一抜けが「施術そのものではなかった」ところに注目です!
症例1.
右四十肩が治らず(40代男性)
患者さんのプロフィール
48歳男性(自営業)。庭師歴25年。
学生時代はバレーボールをしており、右肩は何度も痛めた古傷あり。一年前、脳腫瘍が見つかり切除手術をしたことで、しばらく寝たきりに。半年前右四十肩を発症。
来院のきっかけ、理由
1.右四十肩痛
半年前からの症状。レントゲン撮影で「四十肩」と診断される。
退院後、全身のリハビリを兼ねて肩を動かすようにしたら随分楽になったが、ズキンとした痛みが取れず。
毎回ではないが、引き戸を開けるような右腕を横に引っ張るような動きの際にもズーン重い痛みが出ることがある。
2.左殿部のこりが強い
慢性的なこりだが「1.右四十肩」を患って以来とても強いこりを感じる。痛みは出ていない。
実際に行った施術
・右肩甲骨内縁と右棘上筋・右三角筋、右前鋸筋と右鎖骨下筋の筋緊張を緩める
→右肩の痛みが強いため、腕は全く動かせず施術台上に置いたまま施術
→脳腫瘍手術後のため、肩から上部分は施術せず
・左脊柱起立筋・左多裂筋・左殿部にかけての筋緊張をほぐす。
(※画像挿入:起立筋と多裂筋)
→左股関節と左大腿骨を併せて緩めて腰部と腹部のバランスを取る
・右上半身と左下半身のテンションの高さを緩め、対角線上に引っ張り合っていた背中体側を調整する
→右肩を挙げやすくするため
施術の結果
結果、2週間に1度、計5回ご来院で「1.右四十肩痛」は仕事に復帰出来るまでに回復るも、肩を真上に挙げるまでの一ヶ所突っかかる痛みが取れず。
「2.左殿部の強いこり」はなくなった。主な変化は以下の通り。
2回目~5回目:
回を追う毎に確実に右肩の痛みは軽減し、左殿部のこりや違和感はなくなる。右肩稼働域も広がってはいるが、朝起き抜けの痛みと真上に挙げる直前の角度がどうしても痛みが抜けきらない感じ。
症例2.
右肩が挙がらない+左五十肩痛
患者さんのプロフィール
61歳女性(主婦)。5年前に右五十肩を患い、2年ほどかかりようやく痛みはなくなったが稼働域が戻らず。
半年前、左五十肩を発症。
リハビリをしているが、何をしてもずっと痛む。高校生時、バスケットボールで腰を痛めヘルニア手術を受けている。腰はたまに痛む程度。
来院のきっかけ、理由
1.左五十肩痛
半年前からの症状。石灰化はしておらず、マメにリハビリに通うもどんどん痛みが増す感じ。右肩のように挙がらないままになってしまったら・・・と不安大。
2.右肩が挙がらず
5年前に五十肩を患い、2年かかってようやく痛みがなくなる。数ヶ所治療に通ったが、肩は前へ水平の角度までしか挙がらず、横にはほとんど広がらない。
やかんなどを持ち上げた際に、力がストンと抜けてしまい落としてしまいそうになることがたまにある。規則性が掴めず困っている。
実際に行った施術
・極度に下がり、筋緊張が非常に強い右肩と、右腰~殿部を入念に緩める。
→右大腿骨際の押圧痛が強かった。開いた右骨盤と稼働域が狭くなっている右股関節を併せて緩め、からだのバランスを整える。
・左首肩付け根~左脊椎上部の際のこりを取る。
→左肩回り自体にはこりが少なかった。
施術の結果
結果、10日に1度、計7回ご来院で「1.左五十肩痛」は全く気にならない状態に。
「2.右肩が挙がらず」は後ろに回す時のみ痛みが残る。主な変化は以下の通り。
2回目:
うつ伏せに寝ると、いつも自然と右斜め前になる姿勢が気になっていたが、前回施術後からまっすぐに寝られ驚く。右肩の稼働域は変わらず。左肩はどういう状態でいてもひどく痛む。
3回目:
ストレッチポールで背中と肩回りを伸ばすと、左五十肩痛がかなり楽になることを発見!
毎晩伸ばすようにしてから、日中は全く痛まなくなる。寝返りを打つとまだ痛みあり。右肩の稼働域は変わらず。
5回目:
久々に右腰痛が数日あったが、2~3日で自然に治まる。その痛み以降、左五十肩は寝ている時の痛みも格段に軽減した。
7回目:
左肩がスムーズに使えるようになった分、右五十肩も挙げやすくなったが、後ろ手に回したり、少し遠くのものを取ろうとふっと手を伸ばす際にズキーンと痛むことあり。
四十肩・五十肩に効果的なリハビリテーション、ストレッチ
お二人とも積極的にご自身で痛みのある肩や関連箇所をストレッチされたことで、とても順調に快方に向かわれていきましたが、「あと一歩の痛みが抜けない」という状態が長く続きました。
「とても前向きにおからだの改善に取り組む」という共通点の他、もう一つの共通点が痛みが完全に抜け切る状態を作りにくくしていたのです。
整体施術をしながら、わたくし(院長・小澤)がお二人に同じように行ったリハビリテーションをご紹介します。
1.
施術で痛む肩周辺を緩めた状態で、一度腕を挙げてもらいました。
お二人とも、挙げる前から苦しそうなお顔をしながら我慢して挙げて下さいましたが、肩の少し下の辺りまできたところで、「とても痛くて、もう無理!挙げられません!」とおっしゃいました。
その時に、イライラした不安な気分がとても強くなり、腕を挙げるのが本当にいやなのだと症例1.の患者様がおっしゃったのが印象的でした。
2.
痛む肩と肩甲骨周辺の力を出来るだけ抜いた状態で、悼む肩側の腕をまっすぐに下に垂らしてもらいました。
そしてその肘をわたくしが取り、「真下から真ん前を通り、真上までわたしが持ち上げます。からだ全体をすっかりわたしに任せて下さい。ご自身で腕を挙げようとしてはダメですよ。からだ全体の力を抜いて下さいね。」とお話しながら、静かにゆっくり肘を持ち上げていきました。
脱力していらっしゃるので、はじめは調子良く上がっていきましたが、上がっていくうちに抵抗が現れてだんだん強くなり、肩より少し下方付近で「痛っ!」と我慢できず一度腕をおろします。
「ご自身で挙げる必要はないです。わたしに挙げさせて下さい!」「いやー、頭では分かってるんだけどね。力って抜けないものなんですね。」
この「頭では分かっているが、うまく力が抜けない」というところに、痛みが抜けきらない重要なポイントがあります。
3.
「頭では理解しつつ、うまく力が抜けない」ことで、肩が痛くて腕を挙げられない・・・
これは肩関節の腕挙げコース内に慢性化した恒常緊張が居座っているので起こります。
腕挙げという肩や関連部位の運動が、この恒常緊張を刺激してより強い筋緊張を生じさせてしまうことで、結果激しい痛みとして感知されるのです。
元来自由に動かせ、可動域いっぱいまで挙げられた肩ですから、腕挙げコース内にある恒常緊張が、腕挙げを妨げない程度にまで緩められればいいわけです。
先にも御説明した通り、この恒常緊張はご自身でつくったものですから、それを緩められればいい…とはいえなかなか難しいので、きっかけづくりでわたくしが腕を持ち上げて促していきます。
4.
あまりきつくなく、耐えられる程度の段階まできたところで腕挙げを停止し、しばらくそのままで待ちます。
すると、「あまり痛くなくなったので、自分で力を抜いてみます」と表情も明らかにやわらかくなり、肩の脱力を試みます。
さらに腕を持ち上げ、また痛くなったら動作を停止・・・の段階でわたくしが補助していた手を急速にパッと離してみました。
5.
今や支えがありませんから、腕はパタンと下がるはずですが、そうはならず停止位置をキープしています。わたくしの持ち上げた補助に合わせてご自身でも腕挙げの力を入れていたということですね。
しかし、当のご本人は無意識です。ご自身では十分に脱力しているつもりなのです。ご自身の腕が上がったままになっていることに苦笑されながら、ダランと腕を下げます。
6.
改めてわたくしが腕を持ち上げて先程のところへ来ると、そこは痛みなく越えられました。
しかし、さらに少し挙げるとまた痛みが出てきます。またそこでわたくしが補助の手を離すと、腕はそのままの形でキープされており、苦笑されながらまたダランと下ろす…これを繰り返し脱力を続けました。
7.
こんな風にしかながら、真上までわたくしが補助しながら持ち上げていくと痛みがなくなりました。そこで、「わたしの支えている手を離します。挙げた位置のまま、腕と肩に力を入れてみてください。痛みますか?」
「・・・あれ?痛くない。」
というやり取りをしながら、ゆっくり補助の手を離していくと、そのままの状態でご自身で腕に力を入れているのが分かります。
再度、わたくしが補助をしゆっくり静かに腕を下までおろしていきました。おろした腕と肩の緩んだ感じを十分に味わって頂き、同じことをもう一度繰り返すと、先程よりも脱力が上手になってパタンと腕下ろしも楽に、痛みもほとんどなく挙げられるようになりました。
8.
「今までと同じようにしながら、今度はお一人で腕を上げましょう。わたしは腕に触るのみ、持ち上げませんから。」
とお伝えすると、腕と肩の様子を確かめながらご自身だけで痛みなく挙げられました。
この動きをご自宅でも繰り返して頂き、次ご来院された時には「見てください!」ととても嬉しそうに真上まで腕挙げをしてくださいました。
そのうちに後ろ手に回すことも全く痛みがなくなり、四十肩・五十肩問題は解決しました。
院長からのコメント
痛みがある部位や関連箇所の筋緊張や可動域が戻り、骨盤やからだ全体のバランスが整ったとしても、ご自身の意志と動きの不一致で痛みが抜けきらないというのが今回のケースでした。
ご自身が努力してすっかり脱力し、自分の筋群を意識的には十分に緩めたと感じていても、なかなか抜けきらないということは間々あります。
ことに、習慣化したり慢性化している恒常緊張は意識に上がらないので、ご本人の意識や意志ではなかなか処理できにくいものなのです。
この意識しないまま入れてしまう妨害的な緊張こそ、四十肩・五十肩痛が抜けきらないの大きな原因になります。
同じような緊張が人によっては肩こりや腰痛、首痛を起こすことも多いです。
従来、筋群の緊張は生理的な由来からのみ起こるものとして扱われてきましたが、抜けきれない恒常緊張を自ら生んでいることを自分で気付くこと、そしてしっかり緩める方法が分かれば、四十肩・五十肩はもちろん、肩こりや腰痛、その他の強い筋緊張からくる悩みが解決されることが分かってきました。
痛みを起こす筋緊張そのものは生理現象ですが、その原因になるものには、心理的な動作の仕方や筋緊張が緩められない場合もあります。
不調の改善は、ご自身の心身に向き合う一つのいいきっかけになります。