「出産後、腰痛や尿もれに悩まされてます」
産後の患者さんからよくお聞きするお悩みです。
妊娠中は母体と赤ちゃんを保護し、エネルギーをじゅうぶんに保つために妊娠前より脂肪がついてふっくらとするものです。
出産後にスムーズに脂肪が落ちてくればよいのですが、産後も体型や体重が妊娠前に戻らず、いわゆる「産後太り」に悩む方が少なくありません。
特に体形は戻りにくいとされています。体重は元に戻っても体型は戻らなかったという方はおよそ8割にのぼるという報告もあります。
産後の体型変化には、骨盤の歪みが大いに関係しています
骨盤は出産の前後で、このように変化しています。
1.妊娠前
・寛骨(かんこつ。腸骨・恥骨・坐骨が融合して出来た骨)
・仙骨、
・尾骨
で構成されるハート型のような形状を構成するのが骨盤です。左右対称の逆三角形に似た形ですね。
2.妊娠中期
大きくなったおなかを受け入れるために関節がゆるみます。お腹が大きくなるにつれ、重心が後傾(こうけい)し、腰が反ってきます。
3.妊娠後期
赤ちゃんが大きくなり、お腹が前に出てくることで骨盤の下(恥骨結合 ちこつけつごう)部が離開したり、腰椎のカーブがきつくなることで、腰痛が生じることもあります。
4.産後
出産後は、図のように骨盤が大きくゆるみ、腰椎は反り、恥骨結合部もすぐには元に戻らずに離開状態となったままなので、内臓の下垂や腰痛の原因になります。
もちろんこのまま変化しないわけではなく、妊娠中に広がった骨盤は産後3~4ヶ月かけて左右交互に少しずつ縮みながら、ゆっくりと元の状態に戻っていきます。
骨盤は正常な位置に戻ろうとするわけですが、妊娠前に骨盤の歪みがあったり、妊娠中に体のバランスが崩れたりすると正常な位置に戻りづらいのです。
また、産後3ヶ月頃までに
・横座り
・椅子での足組み
・猫背
といった体を歪める姿勢をとることでも、骨盤は正常な位置に戻らなくなることがあります。
産後、骨盤が戻らないことで起きる症状
産後、骨盤が元に戻らないことで見られる症状には以下のようなものが挙げられます。
・尿もれ
骨盤内の臓器を支える「骨盤底筋」がゆるむのが原因です。
胎児が出てくる産道の一番外側は骨盤(骨産道)で、その内側に軟産道があります。
軟産道は2層になっており、外側は骨盤の内側の筋肉や、骨盤底筋の一部です。内側に、分娩時に胎児が直接接触して通過する子宮下部、子宮頸、腟、外陰の一部があります。
軟産道は出産の際に大きく伸び、出産後は徐々に元に戻りますが、分娩の際に傷ついたりゆるんでしまったりすることで、産後に尿もれを起こすことがあります。
・やせない
血行が悪くなるため脂肪の燃焼がうまくいかないことが原因です。
骨盤が妊娠前の状態に戻らず、骨盤のバランスが悪い状態が続くと、周囲の血行が悪くなってしまいます。
血流が滞っていると、脂肪の燃焼もうまくいきません。出産後「下っ腹が出たまま」「体型が元に戻らない」「太りやすくなった」というのも、このためです。
・腰痛
背骨の変化とホルモン分泌が大きな原因です。
妊娠中には体重が増加し、子宮も大きくなります。おなかが前に飛び出すために体の重心が変わります。そのため腰椎の前彎が大きくなります。その結果脊柱(背骨)のS字カーブがきつくなります。
また、「リラキシン」という関節をゆるませるホルモンが分泌するので、仙腸関節がゆるみます。
妊娠中に大きくなったおなかを受け入れるための変化なのですが、出産後はこのゆるみが原因で腰痛が発症します。
出産後、最も多い悩みがこの「腰痛」です。23%の人に腰痛の症状がみられ、6カ月以上痛みが続いたケースが12.2%に上ったという報告があります。(2004年10月『日本腰痛会誌』より)
・股関節痛
骨盤のゆるみが元どおりにならないことが原因です。
妊娠で骨盤が広がると同時に、股関節もだんだんとゆるくなって出産に備えます。出産後は自然と元どおりになっていくものですが、骨盤のゆるみが完全に元どおりにはならないため、腰痛と同様に股関節痛が生じることもあります。
そのほか、骨盤のゆがみが直接の原因ではありませんが、出産後に姿勢が悪くなることで頭痛や肩こり、不眠、冷え性などの症状が出る場合も多くあります。
先程もお伝えしたとおり、妊娠中に広がった骨盤は、産後3~4ヶ月かけて左右交互に少しずつ縮みながら、ゆっくりと元の状態に戻ります。
よって、産後の骨盤矯正は、産後2ヶ月~6ヶ月までに行うのがおすすめです。産後の女性のじん帯はとても柔らかくしなやかで、特に産後4ヶ月までは歪んだ骨盤を矯正しやすい時期です。
※産後1ヶ月は悪露が出るなど、まだ出産の影響が体に残っています。無理に骨盤矯正を始めてしまうと、悪露が出きらないこともありますので、焦らず1ヶ月は安静に過ごしてください。
骨盤のバランスを整えるための動作
妊娠中は、おなかの赤ちゃんのために起きたり寝たりするのにも気を遣いますが、出産後は、家事もに追われ、そんな時に限って赤ちゃんが泣き出し・・・。
なかなかご自身のおからだに気を配っている時間は取れないかもしれません。
ところが、骨盤のバランスの悪さは、ふだんの何げない行動にも大きな要因が!
必ず1日1回は行う動作を意識して変えるだけで、骨盤調整はもちろん、不快症状をやわらげることができます。骨盤が正しい位置に戻ると、内蔵も正常な位置で機能し、栄養素の吸収が良くなります。
また、血行が良くなることで基礎代謝も上がり、痩せやすい体になりますよ。
①「寝起き」の動作は骨盤に影響する
・寝るとき
上のイラストを参考にしながら正しい正座の姿勢をとったら、体をねじらずそのまま横向きに寝ます。(このとき、自分がやりやすいほうに横向きになります)あおむけになり、曲がっているひざをまっすぐに伸ばしてください。
・起きるとき
あおむけに寝て、ひざを曲げます。
↓
そのまま、ひざを倒しやすい方向に横向きの状態になります。
↓
体をねじらないように起き上がり、正座をします。
↓
正座から両ひざで立ち、出しやすいほうの足を前に出して立ち上がる。
②「正座」の習慣が骨盤の機能を高める
「左右の足のひざの間がこぶしひとつ分開いている」状態が正しい立ち方です。
片足ずつひざをおろし、両ひざで立ちます。左右の足の甲が重ならないようにつま先をつけ、そのままおしりをおろします。足の裏の上に尾てい骨がのっていて、ひざの間がこぶしひとつ分あいた状態になっていれば正解です!
授乳もこの正座の姿勢で出来ると理想的ですが、足のしびれにはくれぐれもご注意を。
③何気ないこんな動作も、骨盤に悪影響を及ぼすことも
・横座りやぺたんこ座り、足を組む
・ヒールの高い靴をはく、厚底の靴
・ローライズジーンズや窮屈なズボンをはく
・子どもを抱くときに腰骨にまたがらせるように抱く
・イスやソファにもたれて座る (腰を丸くして座る)
・携帯電話を二つ折れにするような姿勢で下の物を拾う
・子どもを自分のほうに引き寄せずに抱いたり、しゃがんでから抱っこしないで、腰を折るような形で子どもを抱く
・添い寝したままの授乳(添い乳)
④歩き方にも気をつけて!
「歩く」ということは、上半身から下半身へ、下半身から上半身へと自分の意思や動きを伝え、体の機能を連動させる大切な運動です。
背筋を伸ばし大きく手を振って歩くことで、骨盤にもよい影響を与えます。ご家族で出かけるときには、どなたかににベビーカーを押してもらったり赤ちゃんを抱っこしてもらい、骨盤を意識しながら両手を振って歩くことを心がけると効果的です。
産後の骨盤ケア、体のケアなら当院へ
赤ちゃんを抱っこするなど、これまでにあまり経験のない動作をすることも多くなることはもちろん、今まで気にならなかったことで落ち込んだり悩んだりすることも多くなります。
産後半年以内のおかあさん100人に「落ち込んでしまった原因はなに? (複数回答)」というアンケートをした結果です。
1位 家事・育児の疲れ
2位 パパへの不満、怒り、言動、会話が成立しないなど
3位 理由はわからないけど、なんとなくブルー
4位 世の中からとり残されている気がする
5位 ベビーの成長や病気が心配
6位 ベビーと2人きりの生活がつらい
7位 私はダメなママと自分を責めてしまう
「家事・育児の疲れ」は断トツのトップだったそうです。
2位から7位まではほとんどその差がなく、大半の人がいくつもの原因をあげていらしたとのこと。
骨盤のケアで、腰痛や尿漏れなどおからだの不調を改善することはもちろんですが、ご自身を見つめる貴重な時間として、ご来院されるおかあさまがとても多いです。
体調が改善することで、心の負担が軽減することもあります。おかあさんの心身が安定すると、お子さんも安心して大きくなります。
出産後の変化に富む時期を、元気に乗り切る心身づくりをしませんか?