患者さんのプロフィール
55歳女性(専業主婦)。
学生時本格的に取り組んでいたバスケットボールで腰を痛め、腰椎ヘルニアを患い手術を受ける。
その後順調に過ごし出産。
8年前の引越作業で一度ひどい腰痛になり、3年間ほどリハビリに通い良くなった。今は全く痛まず。
手術はこそしていないが、バスケットボールで右膝も痛めており、膝は今もたまに痛む。
来院のきっかけ、理由
1.右肩が上がらない
5年くらい前からの症状。複数の整形外科での診断はいずれも「右五十肩・肩関節は石灰化していないのでリハビリで治る」。
リハビリ含め様々治療を行ったが、上がらない状況は変わらず。肩を上げる際は以前より痛まなくなったが、肩を後ろに回す動きの際はビキーンと痛む。
(10年前にも「右四十肩」を患ったが、その時はすぐに治った。)
2.左肩痛
ここ半年の症状。右よりは可動域は広いが、こちらは寝返りを打つ際に目覚めることもある程常に痛い。整形外科での診断は「左五十肩・石灰化はしていない」。
3.右膝痛
学生時代のバスケットボールで痛めた古傷。草むしりなどかがむことが多い時のみ起こる痛みだったが、最近、痛む頻度が増えているのが気になる。
整形外科での診断は「加齢によるもの。水は溜まっていない」。
当院の見立て
立位時・腹臥位(うつぶせ)時共に、肩のラインがかなり右下がりになっており、からだ全体が右斜め前方へ大きくねじれている状態になっていた。
これは長年「1.右肩が上がらない」症状が引き起こしたものとらえ、「2.左肩痛」を発症させる引き金になったのではないかと見立てた。
「3.右膝痛」の頻度が最近増えている状態は、からだのねじれを整え、右膝への負担を軽減させることで痛みの頻度を少なくすることができるのではないか。
右斜め前方へ大きくねじれている状態を改善することが、「1.右肩が上がらない」「2.左肩痛」「3.右膝痛」すべての症状を緩和するキーポイントになると見立てた。
実際に行った施術
・右臀部(おしり)と右大腿骨の際に最も筋肉の固さがあったので、右腰部から臀部、右を上にした状態で右大腿骨際を中心に右側の体側をよく伸ばす。
右腋窩(えきか:脇の下)と右肩関節付け根は押圧痛大。「1.右肩が上がらない」「3.右膝痛」に対応。
・左首(特に胸鎖乳突筋)を入念に押圧。
左肩甲骨・左鎖骨下・左件関節を併せてゆるめ、「2.左肩痛」に対応。
・「3.右膝痛」について、右臀部の筋肉が固くなっていることから、右坐骨神経の圧迫も関連しているととらえ、右下肢裏側をゆるめる。
・右股関節が左に比べ可動域が極端に狭いことも「3.右膝痛」を引き起こし、からだのバランスを崩している原因とお伝えしながら、右恥骨結合部と下腹部、右内転筋を緩め調整する。
この箇所が押圧された痛みが最も大きかったご様子。腰椎ヘルニアの手術以来、右股関節はずっと固かったとのこと。
施術の結果
結果、30日に1度、計11回ご来院で右肩の可動域はほぼ元通り(90%くらい)になり、痛みもなくなる。
左肩痛・右膝痛は全く出ず。
主な変化は以下の通り。
・2回目:「1.右肩が上がらない」「2.左肩痛」「3.右膝痛」の諸症状は変わらないが、初診時の「肩のラインがかなり右下がりになっており、からだ全体が右斜め前方へ大きくねじれている状態」という歪みはほとんど見受けられず。
ご本人も「前回施術以降、仰向けになった時に床にぴったりと腰がついている!この感覚は本当に久々で驚いた。」と実感される。
・3回目:「2.左肩痛」は日中なくなった。就寝時の寝返りなどの動きはまだ痛む。「3.右膝痛」はサポーターをする回数が確実に少なくなっている。
リセットポール(※1)に乗り、入浴後など筋肉が緩んでいる時に肩を少しずつ動かすことをお勧めする。
・5回目:「1.右肩が上がらない」症状がかなり治まり、可動域がグッと広がる。
リセットポールで毎日風呂上がりにストレッチすることが気持ちよく、日課になっているとのこと。「腰椎ヘルニア手術の傷跡が一部「ブヨッ」とたるんでよれている感じがあったのが、最近なくなっているねと娘に言われて気付きました。」と嬉しそうにご報告下さる。
・8回目:「2.左肩痛」「3.右膝痛」共に全く出ず。
・11回目:「1.右肩が上がらない」症状は若干後ろへ回す可動域が狭いが、ほぼすべての可動域が元に戻る。
どの方向に動かしても痛みは出ず。斜め後ろにある物を無意識に取っていることをご主人様に指摘され驚かれたとのこと。以降とても自信がついたご様子。約25年ぶりにゴルフを再開される。
まとめ
・「肩のラインがかなり右下がりになっており、からだ全体が右斜め前方へ大きくねじれている状態」という歪みが、「1.右肩が上がらない」状態が長年良くならない状態を引き起こしていた。
・上記の歪みにより、左肩に大きく負担がかかり「2.左肩痛」を発症した。
・「3.右膝痛」について、腰椎ヘルニア手術以降、時折痛んでいたことから、「1.右肩が上がらない」症状が起こる前から、元来右股関節や右坐骨神経部が固くなっていたのではないか。「3.右膝痛」も膝関節の不具合だけではなく、からだの歪みから引き起こされていた。
・長年のからだの歪みが整ったことで、すべての症状が緩和した。
院長からのコメント
腰椎ヘルニア手術以降30余年、ずっとご自身のおからだと無理なく上手にお付き合いされてきたことで培われた「ご自身のおからだへの観察力」がかなり早く快方に向かわせてくれた症例です。
おからだのねじれが整い始めてからは、長年のご自身の勘と知恵で、痛む箇所や背中、股関節などを上手に伸ばしたり広げたりといった動作が、月一度の施術にとても効果的に作用しました。
「さすがに5年間も右肩が上がらない時は、もうダメかと思いました」とおっしゃりながらも、「何か必ず良くなる方法がある!」と常に前向きにおからだと向き合われる姿勢には、頭が下がる思いで毎回いい緊張感を持って施術させて頂きました。
初診から丸2年経ち、今でもゴルフ後のアフターケア含めメンテナンスに月一度ご来院下さいます。
その後痛みが出ない最大の秘訣をお伺いしたご回答は「無理しないこと」。
「ご家族やご友人には温かな観察眼で接しているのに、ご自分へはかなり辛口になっていませんか?自分のからだもこころもそんなに強くないですから、責任をもって自分で守らないとね。5年間の肩の痛みで学びました。」という身に摘まされるお話をここで皆様とシェアしたいと思います。